“個人で分量を変えることは、絶対にしてはいけない。 今のぼくは、声を大にして言いたい。薬を飼いならせると思ったら大問違い。そんなことをすれば、道は深くて暗いものになっていく” 『統合失調症がやってきた』  ハウス加賀谷, 松本キック イースト・プレス

統合失調症がやってきた

統合失調症がやってきた

 うつ病は「こころの風邪」とも呼ばれ、ふつうのよくある病気との一般的理解が広まりつつある。製薬会社の広報によるところが多いとの指摘もあるが、病気への一般的理解は深まったかもしれない。それにくらべれば、統合失調症への偏見はいまだに強いものがある。統合失調症の発病率が、1%と言われているにもかかわらずである。
 毎年楽しみにしている、「みすず」1,2月号合併号(読書アンケート特集)を読みはじめているのだが、精神科医の松本俊彦氏による、以下の文章を発見。

今年のメンタルへルス分野では、当事者によるすごい本、二冊に出会った。一つは、ハウス加賀谷松本キック統合失調症がやってきた』(イースト・プレス)である。一読して、「すごい本が出た」と唸った。もちろん、すでに浦河べてるの活動をはじめ、さまざまな当事者活動による「地ならし」があったからこそなのだろうが、ついにこういった本が出たのかと感慨深かった。芸能人のような立場の人がここまであけすけて語ってくれたことの意味は人きい。ちなみに、本書は単なるタレント本の範疇を大きくはみ出している。援助者や精神障害者家族への示唆に満ちていて、統合失調症の現在発症前(かつて前哨期や前駆期と呼ばれた時期)における児童の内的体験を詳細に記述した資料として、学術的価値も高い。それでいて、読後感は何ともいえずすがすがしいのである。ほとんど奇跡のような本である。

ちなみに、もう一冊は、まさきまほこ『もう独りにしないで――解離を背景にもつ精神科医摂食障害からの回復』(星和書店)である。
本書帯より

誰にも気づかれたくなかった。
ぼくにとって「芸人」という職業は、初めて
見つけた「居場所」だった。やっと手に入れた
居場所を、ぼくは失いたくなかった。
壊れたぼくでもありじゃないか。壊れているん
だから、騙し騙しやっていくしかない。
「舞台は最高、人生は最悪」みたいな言葉も
あるじやないか、と頑張った。
芸風もギリギリと言われたが、シャレじやなく、
本当にギリギリの綱渡リをしてぃた。

母親に対しよい子を演じる小さい頃、エリートサラリーマンの家庭での振る舞いなど、問題を抱えつつ成長、発病するが、最後に救ってくれるのは、家族で有り、相方であった。
音楽グループ「SEKAI NO OWARI」のドキュメンタリーを「情熱大陸」でやっていたが、ボーカルFukaseを見守る中間たちの姿に感動。
P.31

自分は周りから臭いと思われている。そう思い込んでしまう精神疾患を「自己臭恐布症」という。今も通院している病院で知ることになるのたが、中学二年のぼくはそんな専門用語など知る由もない。ましてや自分の心が病気に侵され始めているなんて思いもよらなかった。

P.119

 個人で分量を変えることは、絶対にしてはいけない。
 今のぼくは、声を大にして言いたい。薬を飼いならせると思ったら大問違い。そんなことをすれば、道は深くて暗いものになっていく。

P.126 閉鎖病棟に入院

 いつの間にか草の絵のシールがベタベタと貼られていた。ー枚あたり、横十五センチ、縦五センチくらい。うさぎが跳ねて出てきそうな緑の草の絵。
 母さんだった。母さんが黙々と草のシールを貼っていた。ちょうどぼくが座って目に入る高さに合わせられている。床から九十センチくらいに、保護室の壁に緑のラインができていた。おそらく母さんは、ぼくがどんな部屋に入るのかを知っていたのだろう。でないとシールを準備できないし、常識のある母さんが、部室に入るなり無許町で貼るはずもない。

P.157

 抗精神薬の長期服用によって起こる副作用、「遅発性ジスキネジア」だった。筋肉注射の打ち過ぎだったのだと思う。
 副作用が強く出ると、ぼくの舌は食事もできないほど、無意識にレロレロと暴れまわつた。口に食べ物を運んでも、仝部、舌が跳ね飛ばし、外にこぼしてしまう。汚いし、みっともない。楽しみな食事が、苦しみの時間になるのは辛かった。

【関連読書日誌】

  • (URL)自死が少ないのは、風土だけが理由ではない。人と、人を想う人が作りだした場がある” 『自死の少ない町にて −徳島県旧海部町を歩く』 森川すいめい みすず 2012年 12月号 みすず書房
  • (URL)“日本の精神医学を代表する功績を残したのは、精神分析学の土居健郎(たけお)さんと、個人と個人の「あいだ」の概念で日本人を分析した精神病理学の木村さんだと思います” 『(人生の贈りもの)精神科医中井久夫』 朝日新聞 2013.9.10-10.4

【読んだきっかけ】みすず 2014年1,2,月合併号(読書アンケート特集)
【一緒に手に取る本】

みすず 2014年 02月号 [雑誌]

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ボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

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統合失調症の有為転変

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