“技術の固まりであるはずの、国策としての原発が、結果的には「偶然」に救われたことになり、とても正気の沙汰ではありません” 『日本は再生可能エネルギー大国になりうるか』  (DIS+COVERサイエンス)  北澤宏一 ディスカヴァー・トゥエンティワン

東日本大震災から今日で3年である。まだ東京五輪で浮かれている場合ではないだろう。
著者の北澤宏一氏は科学技術振興機構JST)元理事長、現顧問。福島原発独立事故調査委員会(民間事故調)の委員長である。本書の報告をある勉強会で聞いていたら、何と著者ご本人が現れたのには驚いた。

さらに、国民に対しては明かされていなかったのですが、今回の事故にはさらに大きな危機がありました。これは民間事故調のヒアリングのなかで見つかったものです。官邸上層部は非常に強い危機感を抱いていました。
(中略)
4号機の事態が悪化すれば、住民非難区域は半径200キロメートル以上にもなり、首都圏を含む3000万人の非難が必要になるかもしれないとされたのです。
 このような可能性の警告が、原子カ委員会の近藤駿介委員長らによって「最悪のシナリオ」として首相官邸に届けられていました。この報告書は、9ヵ月以上後になってやっと民間事故調の情報請求によって明らかにされました。
(中略)
そうなると、東日本全体が首都圏も含めて避難しなければならなくなる可能性もある−というのが、民間事故調の検証で見つかった、原子力委員会の委員長らがつくった「最悪のシナリオ」――「なかったことにしよう」ということで回収されていた、「私的な報告書」でした。
(中略)
この過密配置の問題は、まさに、国が滅びるようなリスクです。これほどのリスクは、「リスクのないメリットはない」といつた言葉で他のリスクと同等に扱うことは不可能です。これこそが、まさに欧州諸国が「脱原発」を決めた理由ですと私は思います。
(中略)
 技術の固まりであるはずの、国策としての原発が、結果的には「偶然」に救われたことになり、とても正気の沙汰ではありません。

【関連読書日誌】

  • (URL)“現在生じている事態は、単なる技術的な欠陥や組織的な不備に起因し、それゆえそのレベルの手直しで解決可能な瑕疵によるものと見るべきではない” 『福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと』 山本義隆 みすず書房
  • (URL)“科学(者)への信頼は,何が確実に言えて,何が言えないか,それを科学者自身が明確に述べるところに成り立つといえる。科学とは,まずなによりも《限界》の知であるはずである” 『見えないもの,そして見えているのにだれも見ていないもの』 鷲田清一 科学 2011年 07月号 岩波書店
  • (URL)“日本では、使用済み核廃棄物―つまり、使用済み核燃料の処分方法について、歴史の批判に耐える具体案を持っている人は誰もいないのである” 『福島原発の真実  (平凡社新書) 』 佐藤栄佐久 平凡社

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

原子力発電の根本問題と我々の選択: バベルの塔をあとにして

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