“大日本帝国軍は大局的な作戦を立てず、希望的観測に基づき戦略を立て、陸海軍統合作戦本部を持たず、噓の大本営発表を報道し、国際法の遵守を現場に徹底させず、多くの戦線で戦死者より餓死者と病死を多く出し、命令で自爆攻撃を行わせた、世界で唯一の正規軍なのである。私が問いたいことはこうだ。 それは、正規軍と言える質だったのだろうか?” 『愛と暴力の戦後とその後』(現代新書) 赤坂真理 講談社

- 作者: 赤坂真理
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/06/27
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なぜ私たちは
こんなに歴史と
切れているのか?
『東京プリズン』の作家が
この国の《語りえないもの》を語る
学ぶことの多い一書であった.
まえがきより
これは、研究者ではない一人のごく普通の日本人が、自国の近現代史を知ろぅともがいた一つの記録である。
それがあまりにわからなかったし、教えられもしなかったから。
私は歴史に詳しいわけではない。けれど、知る過程で、習ったなけなしの前提さえも、危うく思える体験をたくさんした。
そのときは、習つたことより原典を信じることにした。
少なからぬ「原典」が、英語だったりした。これは、一つの問いの書である。
問い自体、新しく立てなければいけないのではと、思った一人の普通の日本人の、その過程の記録である。
第1章 母と沈黙と私
P.25
それは、自由と言えば自由な雰囲気なのだけれど、勉強することと性的存在であることの両方を、社会に求められるのはつらいものだ。それこそが社会から承認される道であることを肌身で知ることは。異国の人間には、特に。自分の身の安全が確認できないところで、性的であることは、危険でありうるからである。
P.34
ふたつの思考停止
「A級戦犯が大物であり、いちばん悪い」という誤解は、アメリカが自国のプレスにした説明が簡略化されすぎていたから、という説がある。A級戦犯は国家指導者であり、B級戦犯は現場の、というように。ちなみにC級=人道に対する罪は、ナチス版東京裁判ともいうべきニユルンべルク裁判での(というか東京裁判が東京版ニユルンべルク裁判なのだが)「ホロコースト」に相当するもので、日本での該当者はほとんどいなかった。
B級は、通常の戦争犯罪、たとえば捕虜の虐待や民間人の殺戮で、当時の国際法で禁じられていた行為への違反である。従来、軍事法廷(東京裁判も軍事法廷である)で裁かれる戦争犯罪と言えば、これだけだつた。
通常の戦争犯罪以外に「平和に対する罪"A級」や「人道に対する罪=c級」があるというのは、第二次世界大戦後の概念であり、戦争史上の一大発明ではないかと思う。
私たちは忘れすぎた
『東京プリズン』を書く途上でわかったのは、しかしこの論点のずらし方こそが、東京裁判で勝者によって意図的に行われたことだということだった。それは私にとって、びっくり以上のものがあった。
第2章 日本語はどこまで私たちのものか
P.60 戦争を放棄する,の放棄は renounce
"Renounce the oath (誓いを捨てろ)"
renounceは厳密に「自発的に捨てる」という意味の動詞なのだ。abandon (見捨てる)とは違うし、through awayなどと口語的な言い方にも置き換えない。あくまでも、「自発的に捨てろ」と要求する。「自発的に捨てる」と本人に言わせるまでは、容赦しない。
こういう単語が、私たちの憲法に、他者のしるしとして刻印されている。
他者の言葉で、「私はこれを自発的に捨てる」と言うことほど、倒錯的なことはない。
そのうえ、本人はそこまでのことを言った自覚を持たずに、国際社会にその言葉が流通するままにさせている。
p.61 侵略戦争 という訳語はどこから来たか
起訴状の原語は、こうである。
War of aggression
私は、意外に感じたのだ。invasionなどとは言わないのだな、と。aggressionとは、「攻撃性」のことであり、受け身でなく積極的な攻撃性を意味するだろう。戦争に関して、「自衛」に対抗する概念なのかもしれない。攻撃を受けずに、攻撃を仕掛けること?
aggressionの解釈にはいろいろな次元があるだろう。ひとつ言われるのは、先制攻撃をかけたほうが悪い、という考え方だというものである。
これが転じて「侵略戦争」と言えなくは、ない。
が、「先制攻撃」と「侵略戦争」の間には、かなりおそろしいほどの語感の開きがある。これが日本語になつて私たちの中に定着するものだから、日本語の語感の違いは、他ならぬ我々にとつて死活問題である。
つまり、私たちは、過剰な訳語をつくつて、私たち自身それに過剰に反応をしている可能性がある。
P.72
歴史と日本人がいちばん海外進出したのは、戦争の時代と、戦後の「経済戦争」と呼ばれた時代だ。曰本人が経済領域において、技術を武器に勝とうとしたのは、それが言語なき頜域に見えたからではないかとおもう。だがじつさいには、その前にヴィジヨンがあるべきで、ヴィジョンは大半の人が言語で構築する。それなしにやれたのは、その時代のアメリ力のヴィジョンがあまりに魅力的で、それの改良版を技術力でつくればよかったからであり,そうできる立場の国が、ほとんど曰本しかなかったからだ。
ヴィジヨンとは本来、存在しないものを創る力だ。
それは多くの頭の中ではじめは言語である。
言語の最もすばらしい特質は、ないものを表現できるということだ。
我々には今、ヴィジョンの力が要る。
第3章 消えた空き地とガキ大将
P.95
受験システムもそのひとつだ。受験勉強を一所懸命してもそれが受験以外のなんの役にも立たないことを、もう誰もが知っている。そのうえ、学校を出ても先の見通しが立たないことも知っている。しかし、いかにグローバリゼーションが叫ばれようと、国際競争力をつけることや交渉力の重要性がどのように叫ばれようと、日本人はこの選抜システムを手放そうとはしない。「就活」だつて同じことだ。
P.99
子供の遊びは、図式化すると次のようになる。
共有(空き地で遊ぶ) → 私有(ファミコン) → 超私有(ポ―タブル)
ガキ大将が人をまとめる場所がなくなつていく。
私有財産は仕切れない。
空き地が切り売りされて宅地になつていくのと、「子供の遊びが私有物になつていく」はパラレルだ。
P.101
「ガキ大将の衰退と恋愛の衰退に関係があるよぅに思ってるんだけど?」
「ああ、そぅかもね」
と彼は答えたが、その核心として、意外なことを言つた。
「どつちも交渉ごとだからね」
第4章 安保闘争とは何だったのか
P.108
「日本経済がよかったとき」というのは、「世界におけるアメリカ一人勝ちの時代」だったのか!
だからそれは、戻ってこない。どんなに日本ががんばろうと、アメリカに恭順の意を示そうと、それは戻ってこない!そのうえ、日本にはアメリカに恭順である以外の選択肢がない。その選択肢自身が、「自民党政治」と呼ばれてきたシステムなのではないのか?
P.111
日本のテレビ史において、最高視聴率を叩きだした報道番組は、一九七ニ年の連合赤軍による人質籠城事件「あさま山荘事件」だ。
学生運動の最後の表立った抵抗。NHKと民放を併せて89%超。NHKと大半の民放局が同じことをリアルタイムで放映したこと自体がもう、事件である。
P.113 学生運動がわからない
六〇年安保闘争の前駆期に、「砂川闘争」というのがあった。今の東京都立川市で起こつた、駐留米軍と国家とを相手どった住民運動で、学生運動の原点とも言われている。これは、日本の歴史上ほんの束の間、本当に「民衆」や「市民」という意識が日本で萌芽し、それが成功した事例ではないかと思う。住民や農民や学生たちが、米軍を立ち退かせたのである。これは記憶されていいことだと思うのだが。
P.115 浅間山荘の鉄球作戦
市川崑の記録映画『東京オリンピック』は、鉄球で東京を「壞す」シーンからいきなり始まる。オリンピックの前に、東京の街を、壊して、創り直すのである。そこに登場するのが、ゆらゆらと揺れてコンクリートのビルを打つ、大きな鉄球である。
P.124
ここに影の力、第三の力が存在する。ソヴィエト連邦である。日米のダンスの、真の駆動力はソ連と共産主義だつただろぅ。
ソ連と、ソ連とアメリカとの冷戦がなければ、日本の戦後は、よりひ,どいことも含めて、こうではなかつたはずである。
ジョン•ダワーの占領期研究が少し物足りないのは、この物言わぬ「第三のプレイヤー」の存在に対する目配りが少ないことである。
P.128
六〇年安保闘争――「国民の“戦争裁判”の側面
調べてみると、六〇年安保闘争と七〇年安保闘争は、「安保闘争」という名前が同じだけで、ほとんど別物ではなかつたかと思えてくる。それは驚くくらいに。別種の人たちによって担われ、ちがうものに向けられた、ちがうエネルギーではなかったかと、思えてくる。
名前が同じだとうっかり見過ごすのだが、両者は、担った人々がまるでちがう。
六○年安保闘争を担ったのは、第二次世界大戦後を生身でくぐった人たちだった。
七〇年安保闘争を担ったのは、戦争が終わってどっと生まれたべビーブーマーたちだった(「団塊の世代」も、なまじ漢字を当てはめたためにわかりにくくなつている言葉だ。)
P.138
大日本帝国軍は大局的な作戦を立てず、希望的観測に基づき戦略を立て(同盟国のナチス•ドイツが勝つことを前提として、とか)、陸海軍統合作戦本部を持たず、噓の大本営発表を報道し、国際法の遵守を現場に徹底させず、多くの戦線で戦死者より餓死者と病死を多く出し、命令で自爆攻撃を行わせた、世界で唯一の正規軍なのである。
私が問いたいことはこうだ。
それは、正規軍と言える質だったのだろうか?
第5章 1980年の断絶
P.171
投資とは、美人投票である。
自分が欲しいから買うのではない。「みんながあれを欲しがるだろうから」買うのである。
第6章 オウムはなぜ語りにくいか
P.186
オウムの信者はいろいろな宗教を渡り歩いた人が多いのだが、オウムのよさと問われて異口同音にロにするのは、「修行体系がしつかりしていること」だ。
P.199
壊滅的な「あれ」があった後でおおかたの人々が「何もなかった」よぅに暮らしていることは、本当に象徴的である。
敗戦後の日本の姿、そのものではないか。
第7章 この国を覆う閉塞感の正体
P.223
私はニ〇一一年度から文化学院といぅ学校で教師をしてきた。大正時代からあった日本最古の共学校で、私が職を得た当時、高等学校相当の課程と専門学校相当の課程があった(高等課程は、学校の経営が変わったことにょりニ〇一四年度から新規募集停止。残念でならない)。そこで感じてきたのは、高校生、おおむね十五歳から十七歳くらいまでのテイーンエイジヤーが、面白そうな大人(教師)を感知して寄つていく力の、すごさだ。
第8章 憲法を考える補助線
P.240
「憲」って、本当にどういう意味なんだろう?
たった一人、即答してくれた人がいた。その人はフランス文学者だった。
「『憲』は、おきてという意味だから、憲も法も同じょうなことを言つていることになりますね」
なんてことだろう、「憲法」には、私たちが「憲法」と思つているような意味は本来、ない!
P.252
それは、現行憲法でさえ、できたときは、今の「現代日本語」のようではなかったということである。たとえば「第七条 十 儀式を行ふこと」のように。
これは、現行憲法の起草に関わった日本人たちの自然が、まだ旧仮名遣いであったということだ。そして、この憲法の起草過程には、「(日本語の)口語訳」係がいたという。作家の山本有三(『路傍の石』などの作者)が口語訳に携わっていた。
ニつのこと力わ办る。
1、日本語は、「戦後」と言われる時代の始まりにおいてさえ、いまだ今日のような言語ではなく、「今日のようになりつつある」生成途上だったこと。今の日本語は、ごく
2、現行憲法は、英語からの翻訳だが、日本語内においてさえ「翻訳」を必要としたこと。それでもなお、旧仮名遣いは少し残つたこと。
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