“われわれは、南米のこの国で、ニ十億ドル近い金をかけて罌粟畑と子どもたちに毒を撒きながら、自国では、麻薬の毒から逃れたい人間を助けるだけの資金も持たないのだ” 『犬の力 下』 (角川文庫) ドン・ウィンズロウ 東江一紀訳 角川書店

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あらすじ
熾烈を極める麻薬戦争。もはや正義は存在せず、怨念と年月だ
けが積み重なる。叔父の権力が弱まる中でバレーラ兄弟は麻薬
カルテルの頂点へと危険な階段を上り、カランもその一役を担
う。アー卜・ケラーはアダン・バレーラの愛人となったノーラ
と接触、バレーラ兄弟との因縁に終止符を打つチャンスをうか
がう。血塗られた抗争の果てに微笑むのは誰か一。稀代の物
語作家ウィンズロウ、面目躍如の傑作長編。
アメリカ合衆国の大統領になるトランプ氏の言う、メキシコとの間に壁を作る、という話、単に不法移民の問題だけではないのである。
P.370
麻薬戦争。人生のすべて賭けたこの戦いは、なんのためのものだったのか?
数十億ドルを投じて、世界一抜け穴の多い国境から麻薬を締め出そうと図り、少しも成果があがらないことを嘆くためか? その巨額の麻薬対策予算の、十分の一を教育と治療に、十分の九を供給ル―トの遮断につぎ込むためか? それだけの大金をかけても、麻薬問題そのものの根本原因に切り込むには、まだ足りないのだ。あるいは、刑務所を麻薬犯罪者であふれさせ、その収監にさらに数十億ドルを費やしたうえに、殺人などの重罪犯をどんどん早期出所させるためか? そもそも、アメリカでの“非”麻薬犯罪の三分のニは、薬物やアルコールの影響下にある人間によって引き起こされるのだ。そして、それに対するわれわれの“解決”策は、相も変わらず、刑務所を増やし、警官を増やし、予算をさらに数十億ドル増やすこと。病気を治すどころか、対症療法にすらならない。貧困地区の住民のほとんどが、麻薬を断ちたいと思っても、治療プログラムを受けるだけの金を持たず、健康保険にも入っていない。補助金制度のある治療プログラムに参加するには、半年ないしニ年の順番待ちを強いられる。われわれは、南米のこの国で、ニ十億ドル近い金をかけて罌粟畑と子どもたちに毒を撒きながら、自国では、麻薬の毒から逃れたい人間を助けるだけの資金も持たないのだ。ゆがみきっている。
麻薬戦争とは、野蛮な愚行か、愚かな蛮行か。いずれにしても、血みどろの悲惨な笑劇だ。
【関連読書日誌】
【読んだきっかけ】週刊文春書評『ザ・カルテル』
【一緒に手に取る本】

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