“聖山とは、そこに生きる人々が、自らの存在を賭けて信じているものである” 『梅里雪山(メイリーシュエシャン)十七人の友を探して (ヤマケイ文庫)』 小林尚礼 山と渓谷社

梅里雪山(メイリーシュエシャン)十七人の友を探して (ヤマケイ文庫)
- 作者: 小林尚礼
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2010/11/01
- メディア: 文庫
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
日本の留守本部にいて,その後の対応に奔走したのが本書の著者である.遺族への報告ももちろんその一つ.ある日突然,この世から消えた息子を持つご両親との対面.
梅里雪山(メイリーシュエシャン)は,連峰を指す名で,最高峰の山はカワカブと呼ばれ,地元と人にとっては,登ってはいけない聖なる山であった.
著者は,1996年学術登山隊のメンバとなって,梅里雪山(メイリーシュエシャン)登頂を目指すも,あえなく無念の撤退.あれだけの準備を経て編成した登山隊が,ぎりぎりの登山隊長の判断によって,撤退が決まる.著者は,その時の無念をつづる.
だが,しかし,その後,何度も現地に入って,遺体と遺留品の捜索と回収に携わり、現地の人と交流を重ねるうちに,彼の地の魅力に取り憑かれるとともに,カワカブに登ろうという気持ちなど,自然となくなっていく.その過程の物語が本書の美しい主題.
P.73 1996年,BCを撤退後のこと,
それだけではない。戦慄するような出来事が起きていたことを、後日聞く。登山隊が一ヵ月以上使用したBCの小屋が、私たちの下山後に大雪崩によって吹き飛ばされていたという。小屋の周囲には大木が生えていた。その年輪を見ると、百年程度は雪崩がきた形跡はなかった。
P.99
- 明永氷河の流速は,一年で200から500メートルと算出され,ヒマラヤの平均的氷河より10倍速い.おそらく世界でもっともはやい.
P.139
ラバのファーミー(メス4歳)の元気がない。そのうち口から泡を噴きはじめる。毒のある石楠花(ちゃくなげ)を食べてしまったらしい。アンドゥイが、舌を引っ張りだして針を刺し治療する。しばらく休むと、何事もなかったかのように回復した。
P.196
カワカブの周辺では、人が死ぬとまず土葬にし、数年後に火葬にしなおすという。この辺りには燃料となる木は多いが、チベット人は肉を燃やすことを忌み嫌う。
P.204 親しくしていた村人が亡くなって
墓地を取り囲むように、菖蒲の花が咲いていたのだ。百以上の花が開いている。この菖蒲はもともとここに生えていたものではない。村人が畑から移植したものだ。
墓地の片隅を、息をひそめて僕は見つめた。そこには新しい墓が二つならび、二人のお婆さんが愛用した杖が供えられていた。ひっそりとした墓地に、死を祝福するような不思議な生命感がただよっていた。
P.276
聖山とは、そこに生きる人々が、自らの存在を賭けて信じているものである。外から来る人間が、登山のためにその信念を踏みにじることが許されるだろうか。僕は、カワカブに登ろうとは思わなくなった。いや、登ってはいけないと思うようになった。
- (URL)著者,小林尚礼のホームページ.美しい写真多数掲載
- 日本テレビで放映されたドキュメンタリー『梅里雪山 17人の友を探して』(日本テレビ内のURL)(URL2)
【関連読書日誌】
- (URL)“家族や夫や子供たちを置き去りにして、世界最高所の死臭漂う遊技場へ飛び込んでいこうだなんて、どうすればそんな決心ができるのだろう” 『K2 非情の頂―5人の女性サミッターの生と死』 ジェニファージョーダン 山と溪谷社
【読んだきっかけ】
六本木の青山ブックセンターで発見.懐かしの青山ブックセンター.こういう本屋さんが生活のBCにあるとうれしい.良い本屋です.一気に読みました.恐らく,テレビのドキュメンタリーは見ているような気がします.遭難のニュースは記憶にある.
【一緒に手に取る本】

- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2011/05/27
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る