“家族や夫や子供たちを置き去りにして、世界最高所の死臭漂う遊技場へ飛び込んでいこうだなんて、どうすればそんな決心ができるのだろう” 『K2 非情の頂―5人の女性サミッターの生と死』 ジェニファージョーダン 山と溪谷社

K2 非情の頂―5人の女性サミッターの生と死

K2 非情の頂―5人の女性サミッターの生と死

山の本には,ロマンとドラマがある.死と隣り合わせの命がけ道行きであるにもかかわらず,なぜそうまでして山に登ろうとするのか,万人を納得させる理由がない.しかも,チームでのぼる場合には,ある一人の判断やミスが他の人の命を奪うこともある.とはいっても,本当に心を揺さぶられるような山の本はそうは多くない.
本書は忘れがたい1冊.

Wikipediaによれば,

K2(ケーツー)はカラコルム山脈にある山。標高は8,611mで世界第2位。中国・新疆ウイグル自治区パキスタン(ただしインドは「カシミールパキスタン占領地」と主張している)の境にある。
人里から遠く離れた奥地にあるため、19世紀末までは無名の山であった。不安定な天候、強い風、急な傾斜に加えて、アプローチのために季節によっては40度近い高温となるパキスタン国内を移動しなければならない為登頂の難しさでは標高世界第1位のエベレストより上と言われており、エベレストよりも登頂成功者が少ない(250名)ため、世界一登ることが難しい山ともいわれる。遭難者の数も多く、チャールズ・ハウストン、ロバート・ベイツ共著の書籍から「非情の山」と呼ばれる。(Wikipedia contributors, "K2," Wikipedia, //ja.wikipedia.org/w/index.php?title=K2&oldid=39207351 (accessed October 3, 2011). )

本書執筆時までに,K2登頂を果たした女性は5人.そのうち3人は下山中に死亡し,残りの2人はその後別の山でなくなっている.その5人の人生を生い立ちから追ったものがたりである.

K2はエレベストに次ぐ第二峰えあるが,2003年時点で,エレベスト登頂者総数は2000人近くなるが,K2登頂者総数は200人にみたないものの,犠牲者数はエレベストの180人に対し,K2は53人.1954年にイタリア隊が初登頂してから2004年の登山シーズンが始まる半世紀の間に,登頂した女性はわずか5名.一方エレベストを登頂した女性は90人にのぼる.

 こういった、時代を切り開くクライマーたちとい「うのはどのような人だったのだろうか、そして、彼女たちはなぜ死の淵に接近するような人生を選び取ったのだろうか?彼女たちはなぜ死んだのだろう、そしてひとつの山がなぜこんなに多くの犠牲者を要求するのだろう?家族や夫や子供たちを置き去りにして、世界最高所の死臭漂う遊技場へ飛び込んでいこうだなんて、どうすればそんな決心ができるのだろう?彼女たちの死には女という性が関係しているのだろうか?しかし山は女性だからといって区別するわけではないから、何かもっとほかの力が作用しているのだろうか?

著者が女性であるからこそ目線であると思う.

この本を読んだ直後,東海大学山岳部登山隊,小松由佳,青木達哉の登頂と無事生還!のニュースが飛び込んできた.日本人女性初登頂(世界で8人目),青木達哉(21歳)は世界最年少での登頂.下山途中で一夜ビバーク,という報を耳にした時,この本を読んでいた私は,あっ,これは危ない!と思ったものだ.無事生還は若さがもたらしたのだと思う.本当によかった.

【関連読書日誌】(女性という視点において)
“男にも女にもいろんな生き方があり、いろんな幸せがあるのだということが、この国の常識になるのはいったいいつの日だろう” 『如月小春は広場だった―六〇人が語る如月小春 』 『如月小春は広場だった』編集委員会(西堂行人+外岡尚美+渡辺弘+楫屋一之) 新宿書房
【読んだきっかけ】
書評.5年ほど前に読了.
【一緒に手に取る本】

頂上の旗―生と死のあるところ

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新版がでている!
新版 頂上の旗―生と死のあるところ

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K2 苦難の道程(みちのり)―東海大学 K2登山隊登頂成功までの軌跡

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K2 2006―日本人女性初登頂・世界最年少登頂の記録

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