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“世の中は驚くほど複雑だ。そして、世の中を構成している人間はさらに複雑である。身近な他者ところか、自分自身の心だって簡単には把握できない。” 『 秋葉原事件―加藤智大の軌跡』 中島岳志 朝日新聞出版

秋葉原事件―加藤智大の軌跡

秋葉原事件―加藤智大の軌跡

2008年6月8に起きた,秋葉原無差別殺傷事件(7人死亡、10人負傷)を扱った本.
中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義』を著した中島岳志(たけし)氏の著作である.中島岳志氏と作家辻原登氏をゲストに招いた【文化学院 公開講座Ⅲ】が開催される.(URL)『ことばは人を救えるか――いま、若者の〈生きる〉を問う 秋葉原事件から』
 彼は,なぜこんな事件を引き起こしてしまったのか,そして,一部の人に強い共感を与えたのか.
プロローグより,

 −−現実は、「建前」で、掲示板は「本音」。
 そう語った加藤の言葉にこそ、この事件と現代社会を読み解く重要なカギがある。

そして

 答をいそいではいけない。
 そして単純化した答を求めてはいけない。世界も人間も、極めて複雑な存在だ。決してわかりやすいものではない。

と言う.プロローグ最後の文章,

 是非、先を急がず、ゆっくりと彼の人生と向き合ってほしい。少しずつ立ち止まりながら、読んでほしい。
 おそらく同時代に生きる私たちは、加藤の中にわずかでも自己の影を見てしまうだろう。加藤の痛々しさと、自己の痛々しさがオーバーラップする部分があるに違いない。そして、自分の身の回りにいる彼・彼女の姿を、加藤の歩みの中に見るに違いない。
 その胸の痛みから、私たちはスタートするしかない。そして世界と他者と自己と対峠しなければならない。面倒くさいことだが、そこから始めるしかない。そうしないと、大変なことになってしまうような、そんな予感が私にはある。どうしょうもない切迫感が、私にはある。
 だから、加藤智大をじっくり見つめたいと思う。
 これからの世界を生きるために。社会の破裂を食い止めるために。

では,著者の警鐘であるとともに,警告を伝える叫び声ともとれる.まずは,耳を傾けてみないわけにはいかないだろう.
 本書は,
私は、秋葉原事件を忘れない。
 という一文で終わる.あとがき,より

 近年、過剰に「わかりやすさ」というものが求められている。特にメディアの状況はひどい。「ズバッ」と断言するテレビ司会者ばかりが指示を集めている。
 政治家も同じだ。単純な二分法を振りかざし、「敵」を明示する。同じ主張を何度も繰り返し、既成のものをバッシングする。そして、そんな政治家への人気が高まり、救世主待望論が蔓延する。
(中略)
 しかし、踏みととまって問い直したい。「わかりやすさ」は「単純化」なのかということを。世界は「ズパツ」と言えるほど、わかりやすいものなのかということを。
 世の中は驚くほど複雑だ。そして、世の中を構成している人間はさらに複雑である。身近な他者ところか、自分自身の心だって簡単には把握できない。時に、理由の伴わない非合理的な行動をとり、周囲を驚かせる。そんな行動をとった自分に、自分自身が戸惑う。
 そのような人聞が構成する社会を、そう簡単に単純化して語ることなんでできない。単純化した言葉の中には、必ずごまかしと飛躍が存在する。そんな言葉は、本質的な「わかりやすさ」から最も遠いはずだ。

【関連読書日誌】

  • (URL)未来の世界の住民は、ネットワークに触れることで、運命によらず確率によって、動物的な生の安全の閉域から外に踏みだし、社会との接点を回復する” 『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』 東浩紀 講談社

【読んだきっかけ】本書の存在は知っていたが,知人からの薦めで手にとる.
【一緒に手に取る本】
中島岳志氏の著作

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