“よくできたかどうか分からないけれど、かあさん、ぼくはひとリの人間になった。行って、そして生きてきた。あなたに祝福がありますように” 『約束の旅路 (集英社文庫) 』 ラデュ・ミヘイレアニュ, アラン・デュグラン, 小梁吉章訳 集英社

- 作者: ラデュミヘイレアニュ,アランデュグラン,Radu Mihaileanu,Alain Dugrand,小梁吉章
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2007/02
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本書は,ラデュ・ミヘイレアニュ監督による映画『約束の旅路』の原作である.映画は,ベルリン国際映画祭《パノラマ部門》審査員特別賞・観客賞受賞,セザール賞(2005)オリジナル脚本賞受賞など各賞を受賞,日本では,2007年に岩波ホールほか全国にて公開されている.150分に及ぶ大作だが忘れ得ぬ名画.映画,原作の原題は,“VA, vis et deviens”(行きなさい,生きて,いつかきっと).
難民キャンプにいる主人公の少年は実はキリスト教徒.母は,子どもを生かすために,イスラエルへの帰還プロジェクトの集団に潜り込ませる.イスラエルは白人社会.しかも,実はキリスト教.最後は,医師となって母の元へ還る.感動の一大巨編.
はじめに,より
ロサンゼルスの映画祭でわたしはひとりのエチオピア系ユダヤ人に会った。かれは白分の冒険あるいは民族の冒険を話してくれた。歩いてスーダンまで行ったこと、そこでかれらユダヤ人が死の危険に直面したこと、難民キャンプでの生活、イスラエルへの移住など…。この話は心底、わたしをとらえた。それまでほとんど知られていなかったというだけでなく、デラシネだったわたしの耳にはとくに響くものがあったのだ。この証人から聞くチャンスがなかったら、このテーマにわしづかみにされ、旅に出ることもなかっただろう。わたしは感謝している。そのあとわたしはこの感動を確かなものにするため、この叙事詩をもっとよく知るため、そしてわたしの人生の一時期をこの物語にささげるため、ファラシャと呼ばれる人々について書いたものをすべて集めた。シナリオの共同執筆者のアラン=ミシェル・プランと二人で資料に読みふけり、「モーセ作戦」と呼ばれる冒険の当事者たちの多くに会うことができた。この共同作業から「約束の旅路」のシナリオができ、最優秀脚本賞をとることができた。
物語の見開き
だからぼくはぜったいに忘れない。
「行きなさい、生きて、いつかきっと:・:」。あなたのこのことばはぼくには苦痛であり、希望だった。「行きなさい、生きて、いつかきっと:: ・」。あなたが言ったことを守ってきた。いつかきっと、ということを忘れたことはなかった。いつもぼくはこの教えのもとで生きてきた。一歩一歩、あなたのはうへ。よくできたかどうか分からないけれど、かあさん、ぼくはひとリの人間になった。行って、そして生きてきた。あなたに祝福がありますように。
夜、ぽくは川のおもてに、あなたのまなざし、顔、目を見た。
恐怖と苦痛のなかを旅立ち、生きてきた。そして…。
冒頭より
その人々はゴンダールに近い山あいに忘れられていた…。しかし、いつのころからか、フアラシャ、エチオピアのユダヤ人、ソロモン王とシバの女王の末裔にはひとつの考えしかなかった。エルサレムへ、あの聖地へ帰還するのだ。
一九八0年代にはフアラシャは四万人に減り、エチオピア西部の青ナイルの水源であるタナ湖の北側、ゴンダールとアンボベールの間の周辺の肥沃な台地、エチオピア北部のチグレ州あるいは首都のアティスアベバに散らばっていた。
一七世紀、ゴンダールのキリスト教徒の皇帝が権力の絶頂にあったとき、エチオピアには100万を超えるユダヤ人がいると学者は記した。
アムハラ語(エチオピア西部のアムハラ州の原語)で 、フアラシャとは「異邦人」または「土地を持たない者」を意味する。束ヨーロッパのユタヤ人と同じように、エチオピアのユダヤ人も長いあいだ、エチオピアでは異邦人とみなされてきた。そのためいっさい土地を持つことができなかった。人々にとって、フアラシャと呼ばれるのは侮辱的だった。黒いユダヤ人である彼ら自身は、「ベタ・イスラエル」つまり「イスラエルの家」と称していた。かれらはひとつの種族をなし、世界観、教義を共有した。かれらは黒人であり、かつユダヤ人であるというユニークな種族であった。アフリカの黒人で唯一のユダヤ人であり、全世界のユダヤ人で唯一の黒人だった。
イスラエルとアメリカの支援を受けて、一九八四年11月から一九八五年1月にかけて、エチオピアのユダヤ人をイスラエルに輸送するという信じがたい作戦が実行された。ソロモン王とシバの女王の末稀であるという点については長年、議論があったが、やっとエルサレ
ムのラビが認めたのだ。ファラシャを帰還させるのだ。
このイントロだけで,思わず引き込まれていくだろう.ちなみに,監督,脚本のラデュ・ミヘイレアニュは,1958年ルーマニア生まれ.チャウシェスク政権を逃れフランスに亡命という経歴を持つ.
【関連読書日誌】
- (URL)“文学は、ある意味では勝利者の手によってつくられてゆく歴史への反逆である” 『マラーノの系譜 (みすずライブラリー) 』 小岸昭 みすず書房
- (URL)“死者は永遠に去って、生者に語りかけには絶対戻って来ない、と思うのは、明らかに間違っている。死者は生者に語りかけに戻ってくる。それこそが彼らのすることだし、死者の主な仕事と言っても良い。” 『アンドレとシモーヌ―ヴェイユ家の物語』 シルヴィヴェイユ, Sylvie Weil,稲葉延子 春秋社
【読んだきっかけ】
2007年に,神保町でたまたま夜時間が空いたので,懐かしの岩波ホールで映画を観た.
【一緒に手に取る本】
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エキプ・ド・シネマNo.160 約束の旅路(2005作品) 発行所:岩波ホール(B5版)2007年発行 監督: ラデュ・ミヘイレアニュ 出演: ヤエル・アベカシス
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