“おしなべて回想は恥多きものですが、歳月の経過に濾過されて〈現在(いま)〉という刻(とき)を純にしたりもします。” 『当マイクロフォン』 三田完 角川グループパブリッシング

当マイクロフォン

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2012.1.22追記

昨年11月にCD「心のナレーション 中西龍」が発売されている!CDになるナレーションというのは凄い.リストは末尾参照

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?叙情歌編?

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?叙情歌編?

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?歌謡曲編?

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?歌謡曲編?

追記終わり

NHKアナウンサーにして,ナレータ,中西龍(りょう)の語りは,私の憧れであった.NHKラジオ放送の『にっぽんのメロディー』で語りかける中西龍の声に,知らず知らずのうちに引き込まれ,酔いしれていた.高校生の頃だ.

唄に思い出が寄り添い、思い出に唄は語りかけ、そのようにして歳月は静かに流れていきます。

ではじまる「にっぽんのメロディ」.その独特の語り口には多くのファンがいた.本書のタイトル「当マイクロフォン」は,番組の中での中西の自称である.

ラジオを聞かなくなってかなりたった,1998年秋,中西の訃報が小さく新聞にのった.たまたま気がついたのだが,NHKアナウンサーの訃報が新聞に載ることじたい異例のことだろう.と同時に,もうあの声を,語りを聞くことはできないのだと思うと残念でならなかった.当時は,中西龍のファンがこんなにいるとは知るよしもなかった.

そして今,YouTubeで往年の中西の声を聞くことができる.なんと素晴らしいことか.そして,本書で,中西龍がこんな破天荒な人生を送っていたことを初めて知った.本書の著者も,元NHKのディレクター,そして,事実をもとにしたフィクションであるとうたっている.

実母を五歳で失い,継母とはうまくいかない.初任地熊本へは,芸者上がりの内縁の妻を同伴.トラブルを起こして,異動となった鹿児島では,遊郭へ入り浸る.旭川では,バーのママと昵懇になる.ただ,どこへ行っても中西龍は,情の人である.鹿児島の遊郭で情交を重ねた口の不自由な女性とは,詩のやりとりをしたという.その鹿児島で上司から紹介された女性とは一夜をともにしたまま,捨てて次の任地,旭川へ発ってしまう.その女性とは,後年,一年に一度遭い,中西の墓にはその人の名の卒塔婆が立っているという.(小説だからどこまで実話だかはわからない)

中西は,揮毫を求められると,「茫々哀憐(あいれん)」と書いたという.子供うちに人生の哀しさ知ってしまった中西は,何かを追い求めるかのように,色の濃い人生を駆け抜けた.

アナウンサー特別職につくという希望はかなわず,55歳でNHK退職を退職する.その挨拶から,

たくましい意欲は持ち合わせていませんが、どうか明日の波風よ静かであれ……と希っています。激しさをともなう喜怒は不要ですが、しずかな哀楽は欲しいと思います。人生の真実は、ひそやかなもののなかにこそ宿るというのが、わたくしの信念だからです。

子をもった妻に向けて,

うまれて、生きて、ひとりの女が
三十二歳になるということは平凡である。
だが、ひとりの女が
聡明で慈悲深き母となり
円満で謙虚な妻となることは
容易ではない。

中西龍のナレーションに心惹かれたのは,視聴者だけではない.
TBSの有名アナウンサーだった,三國一朗は,こんな手紙を中西に送っているという.

拝啓
私は年齢こそ年長でありますが、仕事の上では中西さんのはるか後塵を拝し、文字通り私淑し、師事するこころでいるものであります。
何年前のことでありましょうか。カーラジオで中西さんの都はるみ特集を聴き、非常に感動したことがあります。
「レインコートが古びてきました。ひとつ買おうと思っています」というナレーションに、忘れることのないおどろきを覚えました。
この方のナレーションには文学があると思いました。
年上の後輩として末永くおつきあい戴きたく、お願い申し上げます。

美空ひばりは,コンサートの司会を中西に頼んだ.

初任地熊本でのラジオ放送のときから,中西が担当する日は,聴取者からの葉書が群を抜いていたという.天性の声であったのだろう.一方で,ナレーションの職人として栄達をとげたいと希っていた中西は,株式市況を読んで鍛錬したという.

大阪時代,新人アナウンサーの山根基世の指導にあたるが,毎夜毎夜飲み屋さんへ.
近所にすんでいた小谷真生子からは,小父ちゃまと慕われていた.

【関連読書日誌】
【読んだきっかけ】
中西龍のファンでしたからね.この本がでたのを書評で知ってすぐに読みました.こんな人生をおくっていたとは.
【一緒に手に取る本】
こんな本もあるのですね.

歌に想い出が―放送詞文集 (1982年)

歌に想い出が―放送詞文集 (1982年)

にっぽんのメロディー―放送詞文集 (1982年)

にっぽんのメロディー―放送詞文集 (1982年)

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?叙情歌編?

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?叙情歌編?

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?歌謡曲編?

(決定盤)心のナレーション 中西龍 ?歌謡曲編?

〜歌謡曲編〜 DISC-1 龍の旅うた〜北帰行〜
ナレーション〜津軽海峡・冬景色 / 石川さゆり
ナレーション〜北へ帰ろう / 冠二郎
北の宿から / 都はるみ
ナレーション〜みちのくひとり旅 / 山本譲二
雪國 / 新沼謙治
ナレーション〜津軽平野 / 細川たかし
雪椿 / 小林幸子
ナレーション〜北の螢 / 森進一
みだれ髪 / 美空ひばり
ナレーション〜津軽恋女 / 新沼謙治
旅の終りに / 冠二郎
ナレーション〜哀しみ本線日本海 / 森昌子
石狩挽歌 / 北原ミレイ
ナレーション〜北国の春 / 新沼謙治
北帰行* / 小林旭
〜歌謡曲編〜 DISC-2 龍の恋うた〜さざんかの宿〜
ナレーション〜冬花火 / 大川栄策
ナレーション〜風の盆恋歌 / 石川さゆり
ナレーション〜おんなの宿 / 大下八郎
恋唄 / 前川清
おまえさん / 木の実ナナ
ナレーション〜長良川艶歌 / 五木ひろし
湖畔の宿 / 高峰三枝子
ナレーション〜矢切の渡し / ちあきなおみ
夢芝居 / 梅沢富美男
ナレーション〜さざんかの宿 / 大川栄策
女の港 / 大月みやこ
ナレーション〜人生いろいろ / 島倉千代子
雨の慕情 / 八代亜紀
浪花節だよ人生は / 細川たかし
ナレーション〜影を慕いて / 美空ひばり
〜歌謡曲編〜 DISC-3 龍の酒場うた〜舟唄〜
ナレーション〜酒よ / 吉幾三
ナレーション〜人恋酒 / 美空ひばり
おもいで酒 / 小林幸子
ナレーション〜酒場川 / ちあきなおみ
片恋酒 / 宮史郎
ナレーション〜酔っぱらっちゃった / 内海みゆき
居酒屋 / 木の実ナナ五木ひろし
とまり木 / 小林幸子
ナレーション〜悲しい酒(セリフ入り) / 美空ひばり
ナレーション〜望郷酒場 / 千昌夫
酒場にて / 江利チエミ
北酒場 / 細川たかし
ナレーション〜舟唄 / 八代亜紀
新宿情話 / ちあきなおみ
ナレーション〜星屑の町* / 三橋美智也
〜叙情歌編〜 DISC-1 龍の里うた〜赤とんぼ〜
ナレーション
砂山 / 美空ひばり
旅愁 / 美空ひばり
待ちぼうけ / 美空ひばり
ナレーション〜からたちの花 / 美空ひばり
森の水車 / 並木路子
ナレーション〜ふるさと / 小沢昭一
夏は来ぬ〜背くらべ(メドレー)  / 小沢昭一
村の鍛冶屋 / 小沢昭一
天然の美(美しき天然) / 小沢昭一
ナレーション〜荒城の月 / 美空ひばり
琵琶湖周航の歌 / 都はるみ
ナレーション〜月の沙漠* / 森繁久彌
どじょっこふなっこ* / 森繁久彌
青葉の笛 / 森繁久彌
ナレーション〜雪の降る町を / 美空ひばり
津軽のふるさと / 美空ひばり
ナレーション〜赤とんぼ / 美空ひばり
〜叙情歌編〜 DISC-2 龍の母うた〜浜千鳥〜
ナレーション〜おかあさん / 高峰三枝子
こんにちは赤ちゃん / 美空ひばり
ナレーション〜浜千鳥 / 森繁久彌
七つの子* / 小林旭
ナレーション〜悲しき子守唄 / 都はるみ
島原の子守唄 / 美空ひばり
竹田の子守唄 / ロイヤル・ナイツ
ナレーション〜ゆりかごの唄  / 眞理ヨシココロムビアゆりかご会
肩たたき / 川田正子
かあさんの歌 / ダ・カーポ
ナレーション〜高い高いしてよ / 高橋元太郎
ふたあつ  / 鳥海佑貴子、森の木児童合唱団
雨ふり  / 益田恵、コロムビアゆりかご会
仲よし小道  / 桑名貞子、コロムビアゆりかご会
ナレーション〜九段の母 / 島倉千代子
一本の鉛筆 / 美空ひばり
ナレーション〜時には母のない子のように  / 美空ひばり
〜叙情歌編〜 DISC-3 龍のわらべうた〜しゃぼん玉〜
ナレーション〜叱られて / 都はるみ
ナレーション〜みかんの花咲く丘 / 川田正子
箱根八里 / 小沢昭一
この道 / 鮫島有美子
ナレーション〜りんごのひとりごと  / 河村順子、コロムビア子鳩会
大黒さま  / 桑名貞子、コロムビアゆりかご会
ナレーション〜しゃぼん玉 / 小沢昭一
証城寺の狸囃子* / 小林旭
赤い靴  / 野田恵里子、森の木児童合唱団
ナレーション〜めんこい子馬 / 美空ひばり
お山の杉の子 / 美空ひばり
さくらさくら / 美空ひばり
ナレーション〜こいのぼり / 東京放送児童合唱団
汽車 / 西六郷少年少女合唱団
ナレーション〜花 / 川口京子
ナレーション〜おぼろ月夜* / 森繁久彌
ナレーション〜ちいさい秋みつけた / 眞理ヨシコ
ナレーション〜ペチカ / 島倉千代子