“僕はその日,学術的な講義をするふりをしながら,自分という人間を空き瓶に詰め込み,海辺に流れ着いたその瓶を子供たちが拾う日のことを考えていた.” 『最後の授業 ぼくの命があるうちに DVD付き版』 ランディパウシュ, ジェフリーザスロー, 矢羽野薫訳 武田ランダム

- 作者: ランディパウシュ,ジェフリーザスロー,矢羽野薫
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2008/06/19
- メディア: 単行本
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- 作者: Randy Pausch
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いまさらながら,という感もなくはない.
この本は,2,3年前にかなりいろいろなところで紹介されたし,YouTube で,字幕付きの映像まで流れたから,知っている人も多いかもしれない.癌で余命を宣告された,ランディ・パウシュ カーネギー・メロン大学教授(1960年生まれ,当時47歳)が,2007年9月,大学でおこなった文字通り「最後の授業」である.彼の専門は,バーチャルリアリティ(仮想現実)という工学の一分野.
まだ,という人は,最後の授業の映像を見てからこの本を読んだ方がいい.この本には,講義の種明かしがたくさんされているから.
ここで語られる人生は,あまりにアメリカ的な成功譚,と言えなくもない.競争社会の中を,自らの才覚と努力によって見事に生き抜いてきた一人の人生がある.仕事と家庭の両立はもちろんのこと,明るく前向きで,誰にも愛される幸せな人生.それでいて,語り口に鼻をつくようないやらしさがなく,素直で純粋である.
訳者あとがきより
死を目前にして幸せな人生だったと断言できるのは,一生懸命生きてきたという自信があるからだろう.たくさんのすばらしい人たちに支えられてきたと心から感謝できるのは,自分も彼らを愛してきたという自信があるからだろう.不謹慎な言葉ではあるが,うらやましいと思った.
ランディは,残された時間を少しでも家族とともに過ごすことに使って欲しい,という妻の反対にもかかわらず,「最後の授業」の準備に奔走する.しかも,授業の前日は,妻の誕生日なのである.授業の主題は「夢をかなえる方法」.授業の最後で種明かしされるのだが,この授業は,幼い3人の子供たちへむけたメッセージであった.
こんなに立派で格好いいお父さんをもった3人の子供たちは幸せかもしれない.だけど,格好良すぎるその姿と,亡くなってもういないという現実とのギャップはあまりに大きく重荷にならないかな,とも思う.100点満点なのに120点の答案ばかり残されてもね.でも,これも非の打ち所のないというほかないのだが,若い時に親を失った人と話す機会を設け,つらい時期をどんなふうに乗り越えたか,どんな形見が一番意味があるのかを尋ねたという.その上で,自分の子供たちに何を残すかを決めているのだ.常に,全力投球,一生懸命なのである.
アメリカとう国には,自由と機会の国という正のイメージと,過酷な競争社会という負のイメージとで語られることが多い.最後の授業で語られる,彼の生き様は,素朴で純粋なアメリカというもう一つの姿を伝えているように思う.
最後の授業では,突然,ケーキが出てきて,聴衆全員と妻の誕生日を祝う,という著者の演出による妻へのサプライズまで用意されている.これもアメリカ的というか,完璧なまでに用意周到.
第5章人生をどう生きるか,に書かれている項目は,以下のとおり.なんだか道徳の教科書みたいだが,これだけ説得力のある道徳の教科書もないだろう.
- 自分に夢を見る自由を与える
- 格好良くあるよりまじめであれ
- ときには降参する
- 不満を口にしない
- 他人の考えを気にしすぎない
- チームワークの大切さを知る
- 人のいちばんいいところをみつける
- 何を言ったかではなく,何をやったかに注目する
- 決まり文句に学ぶ
- 「最初のペンギン」になる
- 相手の視点に立って発想する
- 「ありがとう」を伝える
- 忠誠心は双方向
- ひたむきに取り組み
- 人にしてもらったことは人にしてあげる
- お願い事にはひと工夫を
- 準備を怠らない
- 謝るときは心から
- 誠実であれ
- 子供のころからの夢を思いだす
- 思いやりを示す
- 自分に値しないしごとはない
- 自分の常識にとらわれない
- 決してあきらめない
- 責任を引き受ける
- とにかく頼んでみる
- すべての瞬間を楽しむ
- 楽観的になる
- たくさんのインプット
最後の授業(講演)や,本書には書かれていない,エピソードを二つほど.
その一.
カーネギー・メロン大学(CMU)は,コンピュータサイエンスと,ファインアートを架け橋した彼の業績にちなんで,二つの学科のビルの間に,The Pausch Bridge(HPを参照) という,本当の橋を作った.
その二.
ランディは幸いにその後しばらく生き延び,翌2008年7月CMUの卒業式でスピーチをする.これもYouTubeで試聴できる.
二つのメッセージを伝える.
- 死に際に後悔するのは,自分のしたことではなく,しなかったことである.
- 情熱.夢中になれる何かをみつけ,それに打ち込むこと.それは,モノやお金ではない.内側から湧き上がるもの.
僕は39歳まで結婚を待ちました.
自分よりもその人の幸福の方が大切に思えるような人を
みつけるのにそれだけ時間がかかったから
願います,皆さんにも
そんな情熱が,愛がみつかるようにと
【関連ブログ】
みすず 2011年1・2月合併号 みすず書房 (黒岩さんの項)
【読んだきっかけ】
2008年秋,たまたま,別のことを検索していたら発見!.
【一緒に手に取る本】
後世に残るよい仕事をしながら,志半ばで「膵臓癌」に斃れた人たちの本.
月田先生の若いころからの活躍ぶりを知るだけにショックでした.この本も,死期を知った上でまとめた本.

若い研究者へ遺すメッセージ 小さな小さなクローディン発見物語
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最近本になった,日本語の最終講義では,次の2冊.

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