“漢籍的教養の上に西欧的教養を積んだものたちが「明治一五年以前生まれ」なら、白紙の上に西欧的教養を積んだのが「明治一五年以後生まれの青年たち」であろう。武士的道徳が消滅したのち、大衆的流行文化と経済万能主義の大波を浴びつつ人となった世代、ということでもあろう” 『 「一九〇五年」の彼ら ― 「現代」の発端を生きた十二人の文学者 (NHK出版新書 378) 』 関川夏央 NHK出版
「一九〇五年」の彼ら―「現代」の発端を生きた十二人の文学者 (NHK出版新書 378)
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ここのエピソードは改めて取り上げるとして,ここでは,本書の執筆動機に関するところを引用する.
なぜ1905年なのかは,「はじめに」を読むとわかる.
日本の国民国家としての頂点は、一九〇五年五月二十七日である。
(中略)
文芸作家を例にとり、一九〇五年の彼らの姿と、その最晩年を点描することで現代日本の成立と成熟、そして衰退までをも暗示できるのではないか、私はそう考えてこの本を書いた。
1905.5.27は,日本海海戦において,日本海海軍連合艦隊がロシア海軍バルチック艦隊を破った日である.これにより日本は独立を維持した.『「革命」四〇年弱の成果は烏有(うゆう)に帰さなかった.』だがその秋,ポーツマス条約に不満な国民は暴動を起こす.『リアルな感覚を持っていたのは政と軍、より好戦的であったのは民と新聞という逆転がこのとき生じた。』
漢籍的教養の上に西欧的教養を積んだものたちが「明治一五年以前生まれ」なら、白紙の上に西欧的教養を積んだのが「明治一五年以後生まれの青年たち」であろう。武士的道徳が消滅したのち、大衆的流行文化と経済万能主義の大波を浴びつつ人となった世代、ということでもあろう。
目次から,
森鴎外 熱血と冷眼を併せ持って生死した人
津田梅子 日本語が得意でなかった武士の娘
幸田露伴 その代表作としての「娘」
夏目漱石 最後まで「現代」をえがきつづけた不滅の作家
島崎藤村 他を犠牲にして実らせたかった「事業」
国木田独歩 グラフ誌を創刊したダンディな辣腕編集者
高村光太郎 日本への愛憎に揺れた大きな足の男
与謝野晶子 意志的明治女学生の行動と文学
永井荷風 世界を股にかけた「自分探し」と陋巷(ろうこう)探訪
野上弥生子 「森」に育てられた近代女性
平塚らいてう(明子) 「哲学的自殺」を望む肥大した自我
石川啄木 「天才」をやめて急成長した青年
おわりにから
文学・文学者と時代精神の関係について考え、大衆化社会のとば口、すなわち一九〇五年からそれぞれの文人の全盛期を眺め、ついてその晩年を紙の上に記述する本はもう出ないかも知れない。もう必要とされないかも知れない。
今後の日本社会がどう推移するものか、不安は大いに残るが、もう生い先長いわけでもなかろうから、どうなってもいいやと思わないでもない。
だが、後続世代に期待しないというのでもない。彼らは彼らのやりかたで時代をひらいて行くだろう。ただその際、歴史を軽んじるものは必ず歴史に復讐されるという不易のことわりを、肝に銘じていさえすればよい。
【関連読書日誌】
- (URL)“夏目漱石はなぜああいうふうに、今あらわれている現代日本ととけこむような作品を書けたのか。今、目前にある日本に必要な批判を作品の中に刻みこむことができたのか” 『日本人は何を捨ててきたのか: 思想家・鶴見俊輔の肉声』 鶴見俊輔, 関川夏央 筑摩書房
- (URL)“人を信ずれば友を得、人を疑へば敵を作る” 『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』 黒岩比佐子 講談社
- (URL)“思っている限り、人は生き続ける。 忘れること、忘れられることを恐れながら、それでも生きていこう” 『コンニャク屋漂流記』 星野博美 文藝春秋
【読んだきっかけ】
書店にて
【一緒に手に取る本】
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