“見る存在である君は 見られる存在でもある” 『免疫学の巨人イェルネ』 トーマス・セデルキスト,宮坂昌之監修, 長野敬, 太田英彦訳 医学書院
- 作者: 宮坂 昌之,長野 敬,太田 英彦
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2008/02
- メディア: 単行本
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帯から
世界を揺るがした免疫学の謎
見る存在である君は
見られる存在でもある
君も僕も
一枚のエッシャーの絵に取り込まれ
永遠に積まないチェスを指し続ける
ジグソウパズルだって
相補的なエレメントはいくらでもある
そもそも,イエルネの名を知ったのは,1983年,当時中央公論社から出ていた「自然」という雑誌に,大野乾が書いた,「天下の名馬をクローニングする方法」という文章によってである.(38巻1号,p26〜34)
クローン羊ドリーが誕生する遙か前のことである.大野乾は,カルフォルニアにあった,City of Hope National Medical Center の生物学研究部長であったと記憶している.世界的に著名な進化生物学者であり,頭脳流出組の一人と言われていた.その小文の内容はほとんど記憶にない,ちゃんと読んでいなかったかもしれない.それでもただ一つ,イエルネに触れた冒頭の部分だけはよく覚えている.
生物学(免疫学)の現象は複雑で,いろいろな観察事象と実験データの中を,何とか溺れずに生き延びていくのが普通の研究者.ところが,そうした複雑な環境の中を,きれいな理論を打ち立てて,颯爽と歩いている天才がいる.それがイエルネだと.
本書は,出版社が医学書院ということもあって,ちょっと値段が張るのが難点ではあるが,非常に贅沢な造りになっている.多田富雄による序文「ニールス・イェルネの聖性と俗性」,監修の宮坂昌之による「バーゼルの宴」,翻訳が長野敬と太田英彦,十分な量の引用文献,参考文献リスト,索引.など.
イエルネの足跡をたどるとともに,20世紀の科学史の一面もみせる.
P.175 1949年,マックス・デルブリュックがファージの研究を始めた頃のこと,
1950年10月,思いがけず二人の若いアメリカのファージ研究者がやってきた。26歳のガンサー・ステントはすでに物理化学でPhDの学位を取得し,2年ほどデルブリュックのもとで研究費を受けポスドクとして研究していた。4歳年下のジェームズ・D・ワトソンは,サルバドール・E・ルリアのラボで学位を取ったばかりで,ステント同様,ハーマン・カルカーのもとで生化学の知識を深めるためにコペンハーゲン留学の補助金を得ていた。カルカーは,遺伝の仕組みにおいて決定的な働きを持つと考えられるヌクレオチドという分子の代謝についての専門家として世界的に知られていた。
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