“日本の精神医学を代表する功績を残したのは、精神分析学の土居健郎(たけお)さんと、個人と個人の「あいだ」の概念で日本人を分析した精神病理学の木村さんだと思います” 『(人生の贈りもの)精神科医・中井久夫』 朝日新聞 2013.9.10-10.4
朝日新聞夕刊 Be欄の連載,人生の贈り物,2013.9.10-10.4は,中井久夫氏へのインタビューだった.
79歳になる中井氏の人生の軌跡を尋ねる短いインタビューだが,論文の要旨にようにうまくまとまっていて,読みごたえ有り.
5回の連載タイトルは,
1 時代や世の中、精神科医の目で記す
2 敗戦と結核、導かれた医師の道
3 心象風景を絵に描く、統合失調症の新療法
4 臨床のかたわらエッセー、翻訳も
5 人々が熱狂する時が危ない
聞き手は 編集委員・川本裕司氏
――1975年、東大講師から名古屋市立大助教授に
――後に京大教授に移る木村敏(びん)教授とのコンビを「惑星直列」と言い表し、奇跡的と評する人もいます
日本の精神医学を代表する功績を残したのは、精神分析学の土居健郎(たけお)さんと、個人と個人の「あいだ」の概念で日本人を分析した精神病理学の木村さんだと思います。ドイツに留学した木村さんは哲学に造詣(ぞうけい)が深く、向こうの教授とも親しくしていました。
――論文以外の執筆活動も盛んで、医師だけでなく広く読まれたようですね
80年代は、精神医学を面白いものにしなければ優秀な青年が集まらず、日本の精神医学がつまらなくなる、という危機感がありました。私が書いたものを評する際、精神科関係者が患者に接する時の「作法」を言葉にした、と言う人がいます。私はこの評価に満足しています
――治療の現場を去った今、精神科医として思うことは
患者さんに対して押しつけがましいのが一番良くない、ということですね。土居健郎さんから「治療とは9割がタイミングだね」と言われたことがあります。確かに新しい局面が開けた時、「今だ」という感覚があるのです
――最後に今の日本や社会に感じることがあれば
日本は島国ゆえの脆弱(ぜいじゃく)性があります。石油や食糧の輸入は、平和を前提としています。日露戦争後、好戦的な学者やジャーナリズムが民衆をあおって「日比谷の焼き打ち」が起こり、孤立の道を歩み始めました。日本を支えている無名の人々が熱狂する時が危ない時だと考えています。
【関連読書日誌】
- (URL)“情報はイマジネーションがなければ意味をなさない。時には情報がないということが逃げ口上に使われる” 『復興の道なかばで――阪神淡路大震災一年の記録』 中井久夫 みすず書房
- (URL)“やはり人間は燃え尽きないために、どこかで正当に認知acknowledgeされ評価されappreciateされる必要があるのだ” 『災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録』 中井久夫 みすず書房
- (URL)“土居の第一世代の弟子となった石川は、土居が亡くなる二〇〇九年まで四五年間、「土居ゼミ」に通い、最期まで師事した” 『永山則夫 封印された鑑定記録』 堀川惠子 岩波書店
【読んだきっかけ】
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