“彼ら自身は平凡な市井の人ではあるが,やっている仕事は非凡なのである” 『日本一の秘書―サービスの達人たち  (新潮新書 411) 』 野地秩嘉 新潮社

日本一の秘書―サービスの達人たち (新潮新書 411)

日本一の秘書―サービスの達人たち (新潮新書 411)

野地秩嘉によるサービスの達人シリーズ第3弾である.取材対象は下記.達人たちの魅力と同時に,それぞれの職業の魅力,面白さも伝わる.

外食産業の社長さんのことば(P.39)

「野地くん、キミ、ラーメン屋へ行ったことあるの。今、客が入ってるラーメン屋ってのはみんな命がけで仕事してるやつぽっかりだ。いいかね、命がけで仕事してる個人に勝てる企業なんてないんだ」

日本一の秘書について(P.67)

彼女は話すことでなく、沈黙することで相手との距離を近づける技術を持っている。

似顔絵刑事のことば.(P.93)

「(略)昔は日本の田舎はどこでもそうだった。おばさんたちが職質してくるから、村のなかで悪いことはできなかった。市民が村を守っていたんだね」

日本一のクリーニング屋について(P.131-2)

 そして、売り上げを押し上げている人きな要因が「シミ接き」である。カミヤクリーニングは衣料についたシミを除去するスペシャルテクニックで顧客をつかみ、新しい客層を開拓しているのだ。シミ抜き自体の値段は高くない。五センチ×五センチ大のシミ抜き料金は五百円。時間のかかる仕事だから、シミ抜きだけでは儲けは出ない。ただし、シミを取ってもらった客が喜び、その他の衣料を持ち込んでくる。受注件数が増えるので,利益が生まれるのである。

似たような話はどこかで聞いたことがある.ベストセラーとなった,『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)』でした.

以前,著者の前著(『サービスの天才たち』 野地秩嘉 (新潮新書))について,その魅力を,そこに紹介されている人たちの目線の低さ,そして著者自身の目線の低さにあると指摘した.それは,似顔絵刑事のこんな言葉にも表れている.(P.93)

「やっぱり、オレたちの仕事は絵を描く技術じゃないんだ。人の話を聞く能力なんだよ。で、人さまの話を聞くには丁寧な態度じゃなくちゃ、相手も心を開かないでしょう。刑事に限らず、仕事ができる人ってのは、誰でも腰が低いんじゃないの。」

そして,それは,著者の取材方法にも表れていて,だからこそ魅力的な本に仕上がっているのだ.(P.144)

取材に手間がかかったのは床屋とシミ抜きである。どちらも話を聞くよりも、まずは体験だと判断したので、床屋の場合はさまざまな店での髪の毛を切ってもらった。髪の毛が伸びるのを待って、取材していたから、執筆するまでに一年近くもかかった。そして、シミ抜きの場合も同様だったのである。

先日,テレビのドキュメンタリーで,池袋の伝説のラーメン屋大勝軒の物語をやっていたが,腕はもちろんのことではあるが,最後は人間の魅力なんだなと思う.そして本書の著者が言うように,すべての仕事は,何らかの形でサービスを提供しているのだ.

【関連ブログ】
『サービスの天才たち』 野地秩嘉 (新潮新書)

【読んだきっかけ】
【一緒に手に取る本】

サービスの天才たち (新潮新書)

サービスの天才たち (新潮新書)

サービスの達人たち (新潮文庫)

サービスの達人たち (新潮文庫)

企画書は1行 (光文社新書)

企画書は1行 (光文社新書)

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)